外国人介護職員は介護人材不足を解消するか?

最近、政府による法改正などによって、外国人介護労働者を増やそうとする動きが色々とニュースに上ることが増えてきました。

例えば次のようなニュースです。

「介護職目指す留学生支援 中部院大が事業開始」2018.5.11 岐阜新聞

「外国人の介護実習生、初の受け入れ 6月にも中国の2人」2018.5.13 朝日新聞

今後、外国人留学生から介護職員・介護福祉士への道へ進んでもらうために学校と介護施設が連携するという動き、また新しく2017年11月に技能実習生の対象職として追加された「介護職」への新規受け入れが2018年6月に開始されるという動きです。

現在は、外国人の介護職員は主に永住者、日本人の配偶者、定住者の方が多く、また一部はEPA(経済連携協定)制度で来日・就労している東南アジア出身の介護職員もいます。
トータルで全国に何人いるかという統計が無いため、詳しくはわかりませんが、恐らく数千人程度だと思われます。

また、厚生労働省の試算によると、2025年には全国で約38万人の介護職員不足になると言われています。
2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について

そこで最近、政府は介護職員不足に対応するために、外国人を介護職として受け入れ、あるいは育成するための方策を2017年に打ち出しました。
それは
1. 入管・難民法の改正によって新たに「介護」という在留資格をつくる。
2. 技能実習法の改正によって、今までは技能実習の対象職種ではなかった「介護」の分野を新たに追加する。

というものです。
上記の1.は、留学生として入国し日本語学校等で日本語能力を向上させた学生が介護関係の専門学校に入学・卒業し国家試験に合格することで「介護」の在留資格を得られ、介護職員としての就労と長期滞在が可能になるということです。

冒頭に紹介したニュースは、この新しい施策を反映した動きです。

それでは今後このような政府施策を受けて、介護職員不足を解消するために大量の外国人が日本にやってくるのでしょうか?

今後外国人の介護職員は増加し、定着するのか?

これについては、私は非常に疑わしいと考えています。

なぜなら、現在の介護職員不足の原因は、介護職として働きたい人が少ないからという単純な理由ではなく、介護職の待遇の悪さにあるからです。介護職は、肉体的に重労働であるばかりでなく、高いコミュニケーション能力も求められますが、それに見合う待遇ではないというのが最大の原因でしょう。

出典:平成29年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)より筆者作成

2017年のデータによると、介護職員の平均年収(賞与含む)は330万円程度で、全産業平均が420万円程度とされているので、約90万円も少ないということになります。

また、介護福祉士の資格を所有していながら、実際に介護職として働いている人は約6割しかいない(厚生労働省)という事実も、この「待遇の悪さ」を物語っているといえます。

このような介護職員の低待遇を改善せずに、現在の日本の賃金レベルよりも低い国から外国人労働力を受け入れて、果たして日本での生活に定着するでしょうか?

日本人でさえ介護職ではなかなか生活が成り立たないため敬遠しているのに、外国人が同じ条件で長期間定着して働き続けられるとは思えません。

さらに、彼ら技能実習生は日本に入国する際に、母国の斡旋業者に高額の手数料を支払うことが一般的で、その高額の借金も返さなければなりません。

東南アジアからのいわゆる「出稼ぎ労働者」の就労を期待しても、この待遇では母国の家族にほとんど送金することもできないでしょう。つまり「出稼ぎ」するのに介護職は適さないことになります。

おそらく彼らは介護職よりも、より稼げる職種(例えば製造業や建設業等)の方を選ぶでしょう。

一旦は介護職として就労しても、期待したほど稼げないことに気づいて、失踪してしまう可能性もあります。

冒頭でニュースを引用したように、民間介護事業者、専門学校あるいは地方自治体では、独自のアイデアで外国人介護職員を誘致しようという動きが出てきていますが、これが全国の数十万人規模の介護職員不足をまかなえるかというと、いまの状況では、全く不可能に近いと思います。

今後、介護職員の待遇が劇的に改善すれば話は別ですが、そのようになった場合は恐らく日本人の介護職希望者もかなり増加すると思われるため、そもそも外国人に頼らずとも職員不足は解消されるかもしれません。

つまり介護人材不足を解消するためには外国人を増やすのではなく、まず日本人にとって魅力的な職種になるような施策が大前提でしょう。

政府は、「まずベトナムからの技能実習生(介護)を3年間で1万人を見込む」とずいぶん楽観的なことを言っていますが、本気で考えているのか、これから確かめたいと思います。

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